日本人で最初に100mで9秒台を記録した陸上界のスター、滋賀県彦根市出身の桐生祥秀選手が、初めて100m走に挑戦した思い出の地に凱旋!
新しく誕生した彦根市の第1種陸上競技場「平和堂HATOスタジアム」で陸上イベントが開かれました。当日参加したのは県内の陸上好き約300人。地元・彦根に帰ってきた桐生選手から走り方を教わったり、一緒にレースをしたりと、夢のような1日を過ごしました。
オープンしたばかりの「平和堂HATOスタジアム」で!
会場となった彦根市の「平和堂HATOスタジアム」は、2025年に開催される「わたSHIGA輝く国スポ・障スポ」の主会場として建設され、2023年4月にオープンした新しい競技場です。集まった人たちが待ち望んでいるのは…。
地元・彦根市出身の桐生祥秀選手!オリンピックメダリストでもある日本のトップスプリンターの登場に、大きな拍手と歓声が沸き起こりました。
この日行われたのは、桐生選手が発起人となり立ち上げた新しい種目「Sprint 50 Challenge」を体験してもらうイベント。「Sprint 50 Challenge」とは、誰もが一度は走ったことがある50m走をベースにした競技で、タイムを競うのではなく、参加者がそれぞれの限界に挑みます。
まずは桐生選手の走りを動画でどうぞ!
早速ですが、まずは桐生選手の走りを動画でご覧ください!
トップスプリンターの走りを間近で見ることができる貴重な機会。参加者の誰もが思わず身を乗り出し、その走りに釘付けになっていました。
イベント当日、桐生選手とともに指導にあたったのは、大津市出身、走高跳で2m27の自己記録を持つ実力者・瀬古優斗選手と、シドニーオリンピック男子4×100mリレーのファイナリスト・小島茂之コーチです。
足が速くなるトレーニングを実演する「走り方教室」や、桐生選手のトークショーなど、見どころいっぱいのイベントの様子をレポートします。
桐生選手の直接指導にテンションアップ!
「走り方教室」では、桐生選手らがトレーニングのコツを伝授。片足を上げて、そのまま30秒間キープ!足を前後に開いて、高く飛び上がったり、足を素早く回したり。動きはシンプルでも、思い通りに身体が支えられず、参加した子どもたちは大苦戦。「お尻で支えるイメージで!」と桐生選手がアドバイスを送ります。
さらに足を前後に開いた状態から飛び上がって、ピタッと着地するトレーニング。桐生選手と瀬古選手の飛び上がる高さに「え、えー!?」と一同から驚きの声が上がります。「最初は高く飛べなくても、続けるうちに少しずつできるようになっていくから」と桐生選手からのエールも。
そして「Sprint 50 Challenge」では、桐生選手がなんと隣のレーンに!桐生選手は教科書にも載っている有名人。小学生ももちろん、その活躍はよく知っています。子どもたちの表情にも、緊張と感動が浮かんでいます。
300人の参加者が10レーンに分かれて50m走に挑戦。違う学年の人と走ったり、大人と子どもが一緒に走ったりすることもありましたが、実は「これでいい」のが「Sprint 50 Challenge」の特徴です。
「Sprint 50 Challenge」では順位やタイムだけが重要ではなく、老若男女、競技や種目を越えて、参加者それぞれが自分の限界に挑戦することが目的。「挑戦することの楽しさや面白さを経験してもらいたい」と桐生選手は言います。
みんな、直前に聞いたアドバイスを生かして、自分の限界を少しでも超えたいと、全力疾走!普段から陸上に取り組む子どもたちは、大人顔負けのスピードを見せつけます。
冒頭の動画はこのときのもの。子どもと大人たちが混じるグループでスタートした桐生選手は、リラックスした走りのまま、ぐぐっとスピードを上げ、あっと言う間にゴール地点に。一同、驚異的なスピードに目を奪われていました。
桐生選手の地元トークに盛り上がる!
桐生選手と瀬古選手のトークショーでは、2人とも滋賀出身とあって、地元の話も飛び出しました。
桐生選手にとって、この彦根は高校まで過ごした地。
「今のスタジアムに建て替えられる前の彦根の陸上競技場で、僕は初めて大会で100mを走ったんです。そういう意味でも思い出深い場所ですね」。
また、新しい競技場について「走り終わった後に彦根城が見えるのがいいですよね。2025年に滋賀で開かれる国民スポーツ大会の陸上の会場にもなるということなので、ぜひ、自分も皆さんの前で走りたいと思います」と出場宣言が飛び出す一幕も。
トーク中、桐生選手がおもむろに取り出したのは、今年の秋、中国・杭州で開かれたアジア競技大会の4×100mリレーで獲得した銀メダル!子どもたちの手から手へ、順番に回されていきます。ずっしりとした重みのあるメダルを手にした子どもたちは、目をキラキラと輝かせていました。
2人の選手には質問もたくさん寄せられました。
「メダルは何個くらいもらいましたか?」
「トロフィーも含めると50個くらいかな…」
「今までどれくらい試合に出ましたか?」
「ざっと150試合くらいです」
「200mが苦手です」
「歩幅を意識して走ってみて」など一つずつ丁寧に答える桐生選手が印象的でした。
2人には、もともと陸上以外のスポーツをしていた共通点も。桐生選手はサッカーのゴールキーパー、瀬古選手はバレーボールの経験があるそう。「陸上じゃなくても、バスケットボールや水泳など、いろんなスポーツに触れあうことが大事。どれがいいかなって中学、高校で選べればいいし、ちょっと陸上を離れて違う競技をやってみるのも、僕はありだと思う」と、自らの経験も踏まえ、子どもたちに呼びかけました。
トークショー以外でも、様々な場面で子どもたちと言葉を交わした桐生選手。子どもたちのウェアに見慣れた学校のロゴを見つけて「見たことあるなあ」と。関西弁が混じる桐生選手の声かけに、子どもたちの緊張もほぐれていきました。
桐生選手と一緒にリレーに挑戦!
その後は、桐生選手と瀬古選手も交えて4×100mのリレーに挑みました!
桐生選手と瀬古選手はその場で募集した小学生低学年の2人とチームを結成。結果はどうなるでしょう!
その様子はぜひ動画でご覧ください!!
桐生選手の表情はリラックスしていて、走る楽しさが伝わってきます。他レーンの選手も決して遅くはありませんが、最後は1位でゴール。すぐ間近で桐生選手の走りを見た来場者からは、その圧倒的な速さに感嘆の声が上がっていました。
一緒に走った選手たちも、メダリストと走れた充足感に満ちた表情。一生の思い出となったのではないでしょうか。
イベントの最後には、フィールドに参加者全員が一列に並んで、みんなでスタート!距離はおよそ50m。スタジアムいっぱいに、ドキドキ、ワクワクが満ち、笑顔が弾け、会場全体が一体となった瞬間でした。
パリ五輪や、滋賀の国スポ・障スポを目指して!
桐生選手にとって地元でのイベントはどうだったでしょう。イベント終了後のインタビューの様子もご紹介します。
「僕の陸上生活は彦根から始まったので、その地で皆さんと走れたのはすごくいい思い出になりました」とさわやかな笑顔を見せる桐生選手。
2022年は一時的な休養を表明し「潰瘍性大腸炎」との闘病も告白。約10ヶ月の休養を経て、2023年5月には10秒03の好タイムをマークし、アジア競技大会でも銀メダルを獲得。困難を乗り越え、確実に調子を上げてきています。
来年に迫るパリ五輪に向けては、「ここから(世界ランキングの)ポイントを取っていかないといけないですし、早めに身体をつくってスピードを上げていきたい。本気で、出場を狙いにいきます」と3度目の五輪出場に向け気合も十分。
改めて「2年後の国スポでも走りたい」と桐生選手。「100mかリレーかまだ、決まっていませんが、何らかで関わりたいと思っています」とのこと。その際には、この会場で再び、桐生選手の疾走が見られるかも!
さわやかな秋晴れのなか、桐生選手を間近に感じられた一日。参加した子どもたちには笑顔があふれていました。
「また、彦根に帰ってきたら、声をかけてください!次は、試合会場で会いましょう!」そんな桐生選手の言葉が、未来の陸上選手の背中を後押し。第二の桐生選手がここ、平和堂HATOスタジアムから誕生するかもしれません。
(文・川島圭/撮影・内田雄弥)
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