#030 6月にドイツで開催される「スペシャルオリンピックス」に滋賀から参戦!熱が入る練習をのぞいてきました

体育館に響くドリブルの音。「よっしゃー」「あー!」とプレー中も大きな声が飛び交います。ここは、滋賀県愛荘町にある体育館。この夏、ドイツで開催される「スペシャルオリンピックス」の大会に、女子バスケットボール日本代表としてふたりの選手が出場すると聞き、白熱する練習場を取材しました。

「スペシャルオリンピックス」の大会とは、知的障害のある人たちが参加する国際オリンピック委員会にも認定されたスポーツ大会です。日の丸を背負う今の心境とは…?

知的障害がある人のためのスポーツ活動「スペシャルオリンピックス」

「スペシャルオリンピックス」は、知的障害のある人たちが、スポーツを楽しみ、社会との関わりをもつことを応援する国際的なスポーツ団体の名称です。世界200の国と地域にこの活動は広がっていて、オリンピックと同じく4年に1度、夏季・冬季の世界大会「スペシャルオリンピックスワールドゲーム(略称:SOWG)」が開催されます。

2023年は6月17日~25日の9日間、夏季大会がドイツのベルリンで開催され、7,000名以上のアスリートたちが26の競技に参加するのだそう。

そんな大きな大会に日本代表として挑むのが「スペシャルオリンピックス(SO)日本・滋賀」の湖東支部で練習に励む女子選手ふたり。月に2回の練習が行われている「秦荘体育館」にやってきました。

ところで、オリンピックやパラリンピックと違い、スペシャルオリンピックスに「ス」がつくこと、不思議に思いませんか?
実はここに大きな意味があると、女子バスケットボールチームを指導するコーチの馬場まゆみさんが教えてくれました。

スペシャルオリンピック「ス」に込められた想い

スペシャルオリンピックスが誕生したのは、1968年。故ケネディ米大統領の妹ユニス・ケネディ・シュライバーが、スポーツを楽しむ機会が少なかった知的障害のある人たちに、スポーツを通じ社会参加を応援するためにデイキャンプを開催したのがきっかけでした。

「スペシャルオリンピックスは、1度きりの大会だけでなく、”ス”をつけることで、スポーツを含むさまざまな活動が、日常的に行われていくことを表現しているんです」と話すコーチの馬場まゆみさん。

名称に複数形の「ス」がつけられているのは、日常的なスポーツトレーニングから世界大会まで、様々な活動がいつでもどこでも継続して行われるようにといった想いから。そこには50年を経てもなお続く、スペシャルオリンピックスへの願いが込められていました。

「SO日本・滋賀」にも、湖南、湖東、湖北、高島、大津、甲賀、湖南と6つの支部があり、各支部でそれぞれ、卓球やバスケットボール、バドミントン、ボウリング、フロアーホッケー、水泳などの活動が行われています。

「障害のある人は、最初からできないと諦めていたり、自分に自信のない子が多いんです。でも、ドリブルができるようになったり、チームのみんなと力を合わせて勝つ経験をしたりすると、自信や達成感につながります」。
さまざまな場所でいろいろな競技を継続して行うことで、チャレンジする勇気や達成する喜び、スポーツの楽しさをより多くの人が味わえます。

普段、養護学校で教員をしている馬場コーチは、卒業した生徒たちと、この場所で近況報告できることも嬉しいそう。

練習の様子を見ていても、みんな生き生きと楽しそうにプレーしている姿がとても印象的です。失敗して「あー!」と大きな声を出したり、シュートが決まって「よっしゃー」とガッツポーズしたり。
練習に参加する一般の人たちも、一緒になって楽しんでいて、見ているこちらも、自然と「頑張れー!」と声が出ます。

スポーツ本来の魅力がこの場にあるような気がしました。

その中で、ひと際大きな声を出して、チームを鼓舞しているアスリートの姿が。
「あの子たちが世界大会に出場する選手なんですよ」と馬場コーチ。
世界大会を目前に控えた、おふたりにも話を聞いてみました。

大きな舞台を前に、ワクワクが止まらない!

廣はるかさんは、湖東支部に女子バスケットボールチームが発足してからずっと、キャプテンとしてチームを引っ張ってきました。SOWGは4年前に続き、2度目の出場。今年は、日本女子バスケットボールチームの副キャプテンを務めます。
「チーム一番のしっかり者」とコーチも頼りにしている存在。

「日本人らしく、礼儀と感謝を忘れずに、世界中の人と交流できる貴重な機会を大事にしたいです。もちろん良い成績も残します」と張り切っています。

「優勝するのもいいけど、それより楽しむことを第一優先に考えて、頑張ってきたいなと思います」と、ニコニコ笑顔で話してくれたのは藤村侑加さん。初めての世界大会に多少の不安もありつつも、ワクワクする気持ちのほうが大きいのだとか。長身を生かして、積極的にリバウンドをとりにいきたいと話していました。

実はふたりは同い年で、誕生日が1日違い!

学校は違ったものの、ふたりとも高校の部活動でバスケットボールを始め、馬場コーチから声をかけられSOに参加するようになりました。
卒業後もバスケットボールが続けられる環境があってよかったと声を揃える、とても仲良しの滋賀ペアです。

すべてのアスリートが表彰台に!

スペシャルオリンピックスが開催する大会の大きな特徴は「参加者全員が表彰される」ことです。

大会の目標は競争ではなく、「努力」と「参加」。そのため、成績に順位はつけられますが、全員が表彰台に立ち、これまでの頑張りに対して、みんなで称え合い拍手を送ります。

年齢や性別、障害の程度に合わせて「ディビジョニング」という組み分けも行われ、競技能力のレベルを合わせ、個々の能力が思う存分発揮できる工夫もされています。

障害のある人も、障害のない人も、一緒に

全国的にSOの女子バスケットボールチームは少なく、現在は滋賀と東京、神奈川の3チームのみ。「SO日本・滋賀」の設立は2014年と全国的にそう早いわけではありませんが、熱心なコーチ陣が揃ってるのが滋賀の強みです。

「コーチだけじゃありません!ファミリーと呼んでいるご家族のみなさんや、一緒にバスケをしてくれるボランティアのみなさんの力も大きいです。障害者スポーツと構えず、ただ一緒にスポーツを楽しむ気持ちで、どなたでも気軽に活動やイベントに参加してもらえると嬉しいです」と馬場コーチ。

障害のありなしに関わらず、みんながともにスポーツを楽しむ。そんなスポーツの本質に触れられる、それがスペシャルオリンピックスの醍醐味だと感じました。

「SO日本・滋賀」では、県内でさまざまなイベントを開催されています。
興味を持った方はぜひお問い合わせください。

お問い合わせ

スペシャルオリンピックス日本・滋賀
公式サイト:https://www.son-shiga.org/

(文・福本明子/撮影・辻田新也)

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